第2回素粒子原子核研究計画委員会議事録



日時:平成14年2月22日(金)13:30〜

場所:KEK 4号館セミナーホール

出席:
所内委員:
	神谷、羽澄、岡田、藤井、吉村、宮武
所外委員:
	金(筑波大)、中家(京大)、山中(阪大)、延與(理研)、田村(東北大)、
	日笠(東北大)、初田(東大)、野尻(京大)、高橋(宇宙科学研)、中畑(宇宙線研)
非委員:
	山田(所長)、岩田(副所長)、小林、他  素核研運協メンバー

1. 報告と初めの打ち合わせ
	初めに山中委員長よりこれまでの経緯と今日の予定の説明があった。
		前回、緊急度を考慮し、JHF でのプライオリティーの議論から始めることとした。
		それを受けて、今回は、12月に行われた NP01 WS の各ワーキンググループの
		代表者にきてもらい報告を受ける。1とおり報告を受けた後、30分程度議論の
		時間をもうける。

2. 前回議事録案の承認
	前回の議事録案が承認された。その際、再度、つくばキャンパス将来構想委員会と本委
	員会との関係について質問があった。
		つくばキャンパス将来構想委員会はこの先5年程度のタイムスパンで、(原子核・
		素粒子分野に限らず)機構のつくばキャンパスでの計画を検討する。一方、本委員
		会は、素粒子・原子核研究に特化し、物理の観点から、素核研の研究計画を現行計
		画も含めて検討する。
	
3. NP01 ワークショップのワーキンググループ代表者からの報告
3.1 Strangeness Nuclear Physics Experiments : WG #1
	家入氏より、ストレンジネス核物理の目的、現状、JHFへの展望、および必要な実験施設
	に関する報告を受けた。ハイパー核では、核力からバリオン間力へと対象を広げることに
	より、核力では存在しない、反対称 L-S 相互作用など新しい相互作用の研究を可能とし、
	それを通して、OBE (One Boson Exchange) から QCM  (Quark Cluster Model) へとより
	基本的なレベルでのバリオン間力の理解が可能となる。排他律が効かないことは、また、
	核の深部の探査を可能とし、核の深部シェル構造を直接見ることができる。S=-2 ハイパ
	ー核ではさらにハイペロン間力の理解をももたらす。
	報告の詳しい内容については
		LOI:http://www-jhf.kek.jp/JHF_www/LOI/50GeVNP-LOI-v1.0.pdf
		トラペのコピー:
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:OBE と QCM の選択とかはできるのか?そもそも QCM とは?
	A:QCM では、バリオン間力をより基本的なレベルで理解しようとするモデルであり、反
	  対称 L-S 結合の短距離部分でアイソスピン依存性が大きくなるなど、OBE との違いが
	  現れる。
	Q:学問の緊急度という観点で、この計画はどう評価できるのか?
	A:物質の安定相に関する知見を深め、バリオン間力を、QCD に基づく有効ラグランジア
	  ンモデルで理解しようとする試みであるという意味で学問の王道である。
	  こうして有効ラグランジアンの基本パラメータが決まって行けば、中性子星の中のハ
	  イペロンの可能性など、新しい領域が開ける。
	Q:50GeV PS のメリットはどこにあるのか?
	A:ガンマ線分光でのガンマ線のコインシデンスでパリティーやスピンが決められたり、
	  ΞN 散乱やΞハイパー核による S=-2 の系の相互作用の研究が可能。また、高いビーム
	  強度は薄い標的など実験の面でも新しい手段を提供する。
	C:今日の報告には出てこなかったが、核内での弱い相互作用(matter の weak に対する効果)
	  は重要。また、K を核に注入すると何が起きるかという観点も重要。Kn には強い引力が働
	  き、K がうようよいるような核が安定であるかもしれない。

3.2 Nuclear/Hadron Physics Experiments : WG #2
	澤田氏より、Nuclear/Hadron Physics の目的と手段、JHF での展望について報告があった。
	低エネルギー QCDの研究、Lattice QCD との比較、ハドロン質量の起源の探究を目的とし、
	核のパートン組成の測定や、グルーボール探索を含むバリオンおよびメソン分光学を行う。
	研究の手段は、pi、K、p、pbar、HI、偏極p ビームである。pbar + 197Au --> D+D-X など
	の重い核の中では、D の生成しきい値が下がるという予言があったりして面白い。また、重
	イオンを用いた固定標的実験では、低温・高密度の特異な領域を探査でき、また、projectile
	fragmentation は、マルチストレンジネス核を作る唯一の方法である。
	
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:pbar の強度は?
	A:BNL の数倍。
	Q:中間子質量の核内での変化を観測するのに、50GeV のエネルギーは高すぎないか?
	 (核内で生成された中間子が、媒質効果を感じる前に、核から飛び出してしまわないか?)
	A:エネルギーとともに断面積が増える効果と、位相空間が落ちる効果の競合で決まるが、
	  おそらく断面積の増える効果が勝って得する。
	Q:HI を JHF でやることのメリットは?
	A:マルチストレンジネス核とか、JHF でしかできないものがある。ただし、GSII が通ると
	  厳しいかもしれない。
	Q:多目的ビームラインの意義は?
	A:埋め込み実験、Glueball 探索などで役に立つ。
	Q:新たに作らずに何ができるのか?
	A:56m(K1.8)のみでは K rare decay も不可能。
	Q:HI の検討状況は?
	A:入射器を森氏らと検討中。
	Q:測定器への要求は?
	A:精度は必要だが、現在の技術の延長上で可能。
	Q:この分野のプライオリティーについてはどう考えるか?
	A:多目的ビームライン建設が1番、重イオンや、反陽子は、外からの誘致もありうる。ただし、
	  反陽子施設を置く場所は確保しておいてほしい。
	Q:メソン分光学のユーザのニーズは?
	A:アメリカにはかなり大きなコミュニティーが存在。ロシアにもある。
	  反陽子については、高いエネルギーは GSI(II) でできるが、低いエネルギーの反陽子は現在 
	  CERN にあるものの近くシャットダウンされるであろう。


3.3 Kaon Rare Decay Experiments : WG #3
	小松原氏より、Kの稀崩壊実験について、目的、現状、JHFでの展望について報告があった。
	CPの非保存が、KでもBでも確立した現在、次の質問は、CKM パラメーター (rho,eta) を精度良く
	決定し、小林・益川で全て説明がつくのか、標準理論を超える効果はあるのか調べることにある。
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020222/koma_kaondecay_slide.ps
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:Br(K+ --> pi+ nu nubar) に対して BSM の効果はどの程度あると期待されるのか?
	A:モデルによるが1.3 倍から 2 倍程度になりうる。
	Q:今なぜKの稀崩壊なのか?
	A:標準理論の予言が O(1%) でできるものというと、B0 --> J/Psi Ks 、K+ --> pi+ nu nubar、
	  KL --> pi0 nu nubar くらいしかない。
	Q:JHF で KL --> pi0 nu nubar に対し 10% の測定というが、これでどの程度わかるのか?
	A:ビーム強度を考えれば、統計的にはもっと行く、BG とか系統誤差の問題である。
	Q:B との関係はどうなのか?
	A:New Physics の現れ方が違う。
	Q:Instantaneous rate が 10 倍から 100 倍になるのは測定器にとってきついので、ビームライ
	  ンに特別の工夫がいると思うが、これは施設におさまりきるのか?
	A:大丈夫である。
	Q:Instantaneous rate を考えると、30 GeV の方が良いということか?
	A:K+ についてはそうだ。ただし、KL については、ガンマ検出器にとって高いエネルギーの方が
	  有利である。
	Q:KOPIO については?
	A:KOPIO はまだ実験費の承認が出ていない。また、Fermilab の CKM も同様で、測定器 R&D の
	  段階である。
	Q:SUSY は LHC や LC で出るのではないか?
	A:超対称性粒子が発見された場合、次の大きな問題は、SUSY の破れの機構の解明である。その
	  局面で K や B からの情報が重要になる。


3.4 Muon Rare Decay Experiments : WG #3
	久野氏より、muの稀崩壊実験について、目的、現状、JHFでの展望について必要な施設(PRISM)
	の説明も含めて報告があった。荷電レプトンセクターにおけるフレーバー非保存の実験は、JHF で
	の mu-e 転換実験において SUSY GUT で期待される大きさの破れを検出するに足る感度をうると
	期待される。
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020222/kuno_muon.pdf
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:50 GeV のメリットはどこにあるのか?
	A:mu のもとである pi を作るための beam power (エネルギーxビーム強度)という点で有利。
	  Phase Rotation は narrow band のビームが必要、そのためにもエネルギーは高い方が有利。
	  薄い標的と組み合わせて、電子に対するエネルギー分解能を上げられる。
	Q:初めからあるものだけで良いのか?
	A:施設(空き地、シールド)は作ってもらいたい。中に入れるものは大学連合で用意することも
	  考えられる。
	Q:SUSY の予言は?
	A:SO(10) SUSY GUT や nu_R seasaw などだと PSI で見つかる可能性が高い。見つかったとして
	  も mu -> e gamma と mu-e conversion では見え方が違うのでモデルの選択に役に立つ。
	Q:逆プロセス(e -> mu conversion)は何故しないか?
	A:e が pi を作り、それが mu になる BG が大きく難しい。

3.5 Neutrino Experiments : WG #4
	西川氏より、nu 実験について、目的、現状、JHFでの展望、必要な施設についての報告があっ
	た。ニュートリノ振動の存在が確立した現在、次の目標は、振動パラメータの精密測定と、ニュ
	ートリノセクターでの CP 非保存の探索となる。特に nu_mu --> nu_e appearance の測定を通し
	た theta_13 の測定が当面(Phase I)の目標となる。それを踏まえて CP 非保存の探索を目指す
	ことになる(Phase II)。
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020222/
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:KAMLAND では theta_13 は測れないのか?
	A:KAMLAND では theta_12 を測ることになる。theta_13 のためにはもっと近くにおく必要が
	  ある。
	Q:初めから full intensity 出たとして、Phase I は何年かかるのか?
	A:5年である。
	Q:CP 非保存の探索のための far detector はどうするのか?
	A:神岡に Hyper Kamiokande を置く。場所も含め検討中である。
	Q:4MW upgrade の内容は?
	A:バンチを長くして空間電荷効果を軽減するなど考えられているが、詳しくは加速器の人に聞い
	  てほしい。
	Q:国際協力で、外国からの寄与はどの程度期待できるのか?
	A:1/3 は期待したい。
	

4. 議論
報告を聴いた後、報告の内容、まとめ方、今後の検討の進め方などについて議論した。必ずしも、時系列でなく、また出された意見を網羅したものでもないが、おおよそ次のような意見が出された。

4.1 報告の内容について
	● JHF の存在を前提に、それを使うと何ができるかという問題設定でなく、こういう物理のため
	 に JHF が必要という論理が必要。JHF で可能となる物理の柱が何であるかをはっきりと打ち出
	 す必要がある。
	● 柱はある。高エネルギー物理でいうと、まず LHC や リニアコライダーなどのエネルギーフロン
	 ティアの計画がトッププライオリティーの柱、それに続いて、ニュートリノ実験の計画、B ファ
	 クトリーなどのフレーバー物理の計画が第2、第3の柱としてあり、そして、K、mu などの稀
	 崩壊の実験が4つめの柱としてある。今日発表のあった K、mu、neutrino はいずれも重要な柱
	 でその分野でのトップクラスの実験である。
	● 原子核の場合はどうなのか?柱はあるのか?
	● 文化が違う。素粒子のように単純でない。目指すものが多様であり、簡単にまとめられない。
	 我が国の研究のレベルでいえば、例えば strangeness nuclear physics の分野は日本の一人勝ち
	 である。
	●物理としてのbig pictureがあり、それへのアプローチが多様だという姿を期待したが、かんじ
	 んのbig pictureが見えなかった。
	● 日本における原子核物理の主要大型計画として、原子核コミュニティで長年議論・立案されて
	 きた大型ハドロン計画が、近隣分野も巻き込んでJHFとして実現したという経緯を理解しておい
	 て欲しい。
	

4.2 まとめ方について
	● 何を基準にしてプライオリティーをつけるのか?どういうまとめ方をするのか?
		A(副所長):お金の境界条件ははずして、物理の観点から考えてほしい。
		A(所長):統合計画の中での提案として考えてほしい。別途、外から金をとることは考え
				ない。
	● Feasibility の評価も重要ではないのか。できなければ意味がない。
	● 本委員会が PAC の役割を果たすことには無理がある。
	● 素粒子の計画と原子核の計画との間でプライオリティーをつけるのは不可能ではないか?
	● 素粒子・原子核分野が一体となって JHF で世界レベルの物理をしていくということを広く外部
	 のコミュニティーに理解してもらうことが必要。

4.3 今後の進め方について
	● メールで、JHF での実験計画について、内容、予算規模、人員、スケジュールなどの情報を求
	 めてはどうか?その上でテーブルを作って判断の材料にする。
	● 原子核、素粒子ともに JHF での計画以外の計画にも視野を広げて、今日報告のあった計画が、
	 その中でどう位置付けられるかを考える必要があるのでは?


5. 次回
	委員長提案で、次回は、JHF での原子核・素粒子実験が、分野全体の中でどう位置付けられるかを
	明らかにするためのスピーカーを選び話を聴くことになった。また、まとめ方、進め方についても
	引き続き議論する。
	
	次回の日程:4月中旬ということでメールで日程調整する。


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