第3回素粒子原子核研究計画委員会議事録


日時:平成14年4月12日(金)10:00〜

場所:KEK 3号館1階会議室

出席:
所内委員:
	神谷、羽澄、岡田、藤井、吉村、宮武
所外委員:
	金(筑波大)、中家(京大)、山中(阪大)、延與(理研)、櫻井(東大)、
	田村(東北大)、日笠(東北大)、初田(東大)、野尻(京大)、
	高橋(宇宙科学研)、中畑(宇宙線研)
非委員:
	山田(所長)、岩田(副所長)、小林、中村、生出、他  素核研運協メンバー
	
1. 報告と初めの打ち合わせ
	初めに山中委員長よりこれまでの経緯と今日の予定の説明があった。
		前回、JHF での実験について報告を受けた。今回は、JHF での実験計画
		が、素粒子、原子核各々について、その分野全体の中でどのように位置
		付けられるかを見極める
		ため、もう少し視野を広げて、JHF 以外の計画について諸外国の計画も
		含め報告を受ける。
		その後で、報告の内容、今後の検討のすすめ方などについて議論する。

2. 前回議事録案の承認
	前回の議事録案が、一部、記述の不正確な部分の修正の後、承認された。最終
	版については本委員会のページ参照のこと。
	
3. JHF 以外の計画についての報告
3.1 B の物理の現状と将来(B-factories, Tevatron, LHC-b, etc.)
	山内氏より、B の物理の現状と将来について、報告があった。報告は Belle 実
	験の現状のレビューに始まった。B factory 実験は、B、D 崩壊の研究を主目
	的とし、CP 非保存の発見とそのパラメータの決定を物理の目玉とする。
	KEK-B 加速器は、10^34 のルミノシティーゴールとしているが、既に 7.2×
	10^33 を達成しており、最大 371pb^{-1}/day を記録した。
	Belle グループは、12ヶ国、50 研究機関からなる。測定器は順調に稼働して
	おり、Δz~O (100μm) の分解能をもち、既に積分ルミノシティーで 66.2 
	fb^{-1}、BBbarイベントとして 66M イベントを収集している。
	B^0 --> J/ψKs を初めとする、(ccbar)Ks 終状態の測定は、b --> c 遷移のみ
	を経由し、cos 項がない(direct CPV はない)と考えられており、これから
		sin2φ_1 = 0.82±0.12 (stat) ±0.05 (sys)
	が得られ、BBbar 系に置ける CP 非保存を確立した。
	一方、B^0 --> ππ 崩壊では、Vud を介する tree diagram と Vtd を介する 
	penguin diagram が異なる phase を持ち、cos 項を含む(direct CPV があ
	る)と期待されるが、これは現在のところ 3σ程度である。
	
	Tevatron Run II では、2001-2004 にかけて、2fb^{-1} の積分ルミノシ
	ティーが期待される。bbar の生成断面積は B factory の約 10^4 倍で大きい
	が、Pt > 5GeV でも S/N ~ 2% で、特別なトリガーを要し、また、K の運動量
	が高く flavor tagging が難しい。一方、B^o_s もできるという利点もある。
		Δsin 2β ~ 0.04 for 2 fb^{-1}
	が期待されるが、これは同時期に達成されると期待される Belle の
		Δ sin 2φ_1 ~ 0.05 for 300 fb^{-1}
	と同程度である。
	Q:systematics は電子・陽電子の方が良いということはないのか?
	A:必ずしもそうとはいえない。
	φ_3(γ) については、
		Δγ ~ ± 10°
	が期待され、これも Belle で期待される
		Δγ ~ ± 15°for 300 fb^{-1}
	と同程度である。
	Q:±10°では嬉しくないのでは?
	A:嬉しくない。
	
	B factory 実験には、
		Phase 1	CP 非保存の発見		30 fb^{-1}	5 × 10^{33}
		Phase 2	KM の精密検証			300 fb^{-1}	10^{34}
		Phase 3	超対称フレーバー物理	3000 fb^{-1}	> 10^{35}
	の3つの phase が考えられるが、現状は、phase1 を終え、phase 2 に向か
	おうとしているところだと言える。
	さらに phase2 では、例えば B --> K*μμ、K*ννの分岐比、
	M_{μμ}、M_{νν}、さらに、崩壊で出てきたμの前後方非対称度などの測
	定を通して、B --> sγ だけでは得られない情報が得られると期待される。
	また、B --> Dτν_τ と B--> D μν_μ の分岐比の比をとることにより、両
	者に共通してあらわれる標準理論の寄与をキャンセルし、前者にのみにあらわ
	れる荷電ヒッグスの効果を引き出せる可能性もある。
	さらに、phase 3 では、超対称フレーバーセクターのパラメータ決定を目指す
	事になる。
	Q:Phase 2 は Tevatron に勝てるのか?
	A:Tevatron では、K*μμは可能だが、νを2つ含むプロセスはできない。
	
	LHC-b では、10^{12} /year と圧倒的な数の B 中間子が生成されると期待さ
	れる。しかし、B --> γ/π^0、multiple ν's、φ などの崩壊、b --> s γ、
	s l^+l^- などの inclusive branching fraction の測定は電子・陽電子衝突での
	み可能である。LHC で超対称性粒子が発見された場合、B factory では、超対
	称セクターでの CP 非保存、τ --> μγ などの LFV の測定を目指す事にな
	る。
	
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020412/BbyYamauchi.pdf
	を見よ。

	報告の後、以下のような質議が行われた。
	
	Q:sin2φ_1 の測定は三角形を仮定しているのか?
	A:仮定していない。
	Q:Super KEK B はいくら?
	A:480 億円
	Q:加速器の技術的可能性は?
	A:方法は、ビームをしぼる事と、電流を増やす事。問題は、シンクロトロン
	  放射光にたたき出された光電子によるビーム不安定性があげられるが、こ
	  れは、ante chamber の実装、電子と陽電子のエネルギーをスイッチし
	  て、陽電子を高エネルギーにするなどの対策が考えられている。
	Q:480 億円のコストの内訳は?
	A:RF の倍増 が??、入射器増強が 80 億、真空が 100 億、測定器が 30 億
	  である。
	Q:どれかをけずって安くする事は考えられないか?
	A:やめるとするとエネルギーのスイッチをやめる。
	Q:標準理論とのずれが見つかった場合、SUSY と他の new physics の区別が
	  できるのか?
	A:LHC で超対称粒子が見つかってほしい。そうすれば mass scale が決ま
	  る。その上で例えば、φK_s (SM + SUSY)、J/ψK_s (SM only) を比較す
	  る事により超対称性の効果を抜き出す事ができる。
	Q:2007 に 運転開始するとする Super B と LC の priority についてはどう考
	  えているのか?
	A:個人的には、LC が順調に行けば、Super B は作らなくて良いと考える。
	Q:2007 運転開始はスケジュール的に可能なのか?
	A:やりたいと考えている。
	Q:いきなり 10^{36} はできるのか?
	A:SLAC の言うところの 10^{36} は実は 10^{35} である。いろんなパラ
	  メータを少しずつ膨らませている。
	Q:今の 10^{34} は 10^{35} になるのか?
	A:原理的(電流、RF×2、光電子の問題)に無理。
	Q:top で CP 非保存を探すのは?
	A:標準理論の寄与が無く、見つかればただちに new physics と言えるが、
	  CP 非保存が、質量に結合していない場合には、B factory が有利であ
	  る。将来的には、LC での LFV 探索、測定が有力。
	

3.2 Hadron の物理の現状と将来(Tevatron, LHC, etc.)
	田中氏より、ハドロンコライダーの物理の現状と将来について、報告があっ
	た。Tevatron と LHC の加速器と測定器の簡単な説明に続いて、そこで期待
	される主要な物理についての解説をきいた。
	Tevatron は、Run 1 で 0.1fb^{-1} をため、エネルギーを 1.96 TeV に、ま
	たルミノシティーを 1.6×10^{32} から 8.6 ×10^{31} に増強し、現在、
	Run 2a で2 fb^{-1} を目指し稼働中、2002 年には 300 pb^{-1} 達成を目指
	す。Run 2a 終了後は、15 fb^{-1} を収集する計画である。
	Machine の増強に合わせ、測定器にも改良が加えられた。CDF では、バンチ
	間隔の短縮にともない、tracker と vertex の改善とともにレプトンのアクセ
	プタンス拡大がはかられた。
	一方、D0 では、2T ソレノイドの導入、VTX、tracker の導入など、全く新し
	い実験に生まれ変わったと言える。こうした測定器改良を経て、W --> τν、
	Z --> b bbar 等からくる b とか τ でトリガーすることが可能となった。
	
	LHC は、2007 春に実験開始を予定している。pp 衝突のエネルギーは、
	W_L W_L 散乱の実効重心系エネルギーを 1 TeV 程度以上とするため、
	E_{beam} = 7 TeV、すなわち、重心系エネルギーにして 14 TeV で、設計ル
	ミノシティーは、10^{34}である。LHC では、重イオン衝突も可能であり、
	PbPb 衝突の場合、重心系エネルギー 1312 TeV、ルミノシティー 10^{27} 
	が見込まれている。測定器としては、空芯トロイド磁石のミューオン検出器を
	特徴とする ATLAS、4T の高磁場ソレノイド、PbWO_4 電磁カロリメターを
	特徴とする CMS がある。重イオン衝突のための測定器としては ALICE がある
	が、CMS (ATLAS) でも対応可能である。
	LHC で期待される物理は、electroweak、top に関するいわゆる bread and 
	butter physics から最大の目玉であるヒッグス、超対称性の探索、さらに
	は、最近話題の extra dimension まで、多岐にわたる。例えば W の質量測定
	精度を比べると、
		Δm_W = ±35 MeV (LEP2)
			    = ±30 MeV (Tevatron Run II)
			    = ±15 MeV (LHC)
			    = ±10 MeV (LC)
	となる。また、TGC (Triple Gauge boson Coupling) 測定では、WWγについ
	て 1 % レベルまで、異常結合がおさえられる。トップ質量については、
		Δm_t < 3 GeV (Tevatron Run II)
			  < 1 GeV (LHC)
			  < 0.1 GeV (LC)
	である。ヒッグス粒子の発見 (5σ) 能力に関しては、例えば、質量 115 GeV 
	の標準理論のヒッグス粒子の場合、Tevatron では、その発見に 20 fb^{-1} 
	を要し、30 fb^{-1} で 120 GeV 程度までをカバーする事になるが、LHC で
	は、10 fb^{-1} (low lumi. で約1年) で ~1 TeV までをカバーできる。
	30 fb^{-1} では、超対称性の場合でも ttbar h (h -> bbbar) が強力で、
	(m_A,tanβ) の全ての領域をカバーする事ができる。さらに、300 fb^{-1} 
	では、スクォーク、グルイーノ質量で 2.5 TeV 以上までの感度を有する。こ
	の有感領域は、さらなる積分ルミノシティー増加で緩やかに拡大するにすぎな
	いが、エネルギーを倍増すれば(Super LHC 28 TeV)大幅に拡大する。
	Q:300 fb^{-1} はいつ頃達成できるのか?
	A:2012~2013 年頃。
	さらに、Large Extra Dimension のシナリオでは、ブラックホールが大量に生
	成され、その崩壊から、例えばヒッグス粒子が1時間で見つかる可能性すらあ
	る。
	
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020412/HCbyTanaka.pdf
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:Super LHC (10^{35}、28 TeV) の際には magnet を交換するという事
	  か?
	A:そうだ。測定器はきびしくなる。
	Q:low lumi 1年で 5σでヒッグスの全領域を覆えるというが、見つかったも
	  のがヒッグスといえるのか?
	A:ヒッグスに期待される複数のチャンネルで見える事が重要である。
	Q:Tevatron は 2007 年まで動くのか?
	A:LHC が動くまでは全力をあげるという事だ。
	Q:偏極陽子・陽子衝突に意味はあるか?
	A:LHC では知らない。
	Q:日本の貢献は?
	A:ATLAS の場合、ハードとしては、2T ソレノイド電磁石、Thin Gap 
	  Chamber など。man power としては実質10%、お金としては ~5% 程
	  度である。
	Q:日本の何%くらいなのか?
	A:Tevatron には7大学が参加している。LHC の場合、ATLAS+CMS 合わせ
	  て20大学、人数にして60人程度。
	Q:今程度の参加の仕方で勝負できるのか?
	A:危惧はあるが、現状では頑張れている。
	Q:日本の contribution として誇れるものは?
	A:例えばシリコン。
	Q:何を売るのか?
	A:エネルギーフロンティアに関わる事が重要。
	Q:それは高エネルギー村だけの論理なのでは?
	A:一般に説明するのは難しい。

3.3 Linear Collider の現状と将来(JLC、NLC、Tesla、etc.)
	松井氏より、リニアコライダー計画の現状と展望について、報告があった。
	JLC 加速器と物理についての簡単な紹介の後、主として、プロジェクト推進の
	観点に立った、これまでの経緯、今後の展望についての説明がなされた。リニ
	アコライダー計画は、LEP2 の上から、500GeV 当たりまでをカバーする第一
	期計画と、引き続き 1 TeV を目指す第二期計画からなるが、第一期計画だけ
	をとっても、5年間で 1000 fb^{-1}、ヒッグス粒子、トップクォーク各々、
	数にして ~0.5M が期待できる。W/Z にいたっては、10M イベントが予想さ
	れ、これは、現在の電弱理論の精密検証をさらに押し進める事を可能とする。
	超対称粒子については、一旦しきい値を越える事ができれば、50k イベント
	程度が期待され、さまざまな精密測定が可能となる。

	ハドロンコライダーの報告の際に出た質問を受けて、LC の物理の重要性は、
	日本を初めとする ACFA 諸国はもとより、ヨーロッパ、北米においても次期
	大型加速器計画として位置づけられていることからも分かるように、世界的に
	十分理解されていること、また、JLC は学術審議会できちんと議論されている
	ものであり、高エネルギー村だけのものではないことのコメントがあった。我
	が国では、早くからリニアコライダーを国内における高エネルギー分野の次
	期基幹計画と位置付け、開発研究を開始したが、その計画の規模の大きさのた
	めに、当初、予算獲得、計画実現までの道筋にははっきりとした指針はなかっ
	た。1996年になると、科学技術基本計画にまつわる陳情活動の結果、進むべ
	き方向が定まった。これに関しては、当時の高エネルギー委員長、長島氏の
	「リニアコライダー建設についての要望書」;その後の経過と題する報告 
	(High Energy News, vol.15 No.1, April,1996) にまとめられている。
	ポイントは
		●文部省が本気でやる気になる事
		●予算規模をトリスタンの2〜3倍程度に押さえる事
		●国際協力
		●学会全般の理解と支持
	である。国際協力においては、ACFA のリニアコライダーに関する最初の声明
	(1996)を受け、LC ワーキンググループが結成され、昨年夏には、物理と
	測定器についての大部の報告書が出版された。これを受ける形で、ACFA より
	2回めの声明(2001 秋)が出され、リニアコライダー計画実現に向けた我が
	国の一層の努力の要請がなされた。文部省においては、学術審議会特定研究領
	域推進分科会加速器科学部会からの、「加速器科学関係機関等における今後
	の連携・協力の在り方について」と題する報告 (1999 年 4 月 9 日) の中で 
	JLC がとりあげられており、また、加速器科学 (加速器自体の研究・技術開発
	とそれを使った諸科学の研究の双方)の維持・強化が唱われている。
	一方、学術会議からは、近隣諸国の理解、コスト評価が要請されているが、前
	者については、上記のように ACFA の推薦がえられており、後者について
	は、現在進行中のコスト評価が夏までには終わる予定である。この時点で学術
	会議での推薦をうるための基盤ができると考えられる。
	また、LC 推進委員会のもとに、サイト候補の検討が進められている。サイト
	検討は、堅い岩盤を持つ山岳地帯と、インフラ整備の観点から有利な研究開発
	拠点の2つのカテゴリーで行われており、後者に属する KEK サイト案につい
	ても検討が進んでいる。

	目を世界に転じると、ヨーロッパ (TESLA) の場合は、サイトは、ハンブルグ
	の DESY から北西にのびる場所と決まっており、2001年春には TDR が出版さ
	れ、概算要求が行われた。2002年秋には、German Science Council から連
	邦政府への答申が出る事になっている。一方、アメリカでは、2002年 1 月に
	HEPAP suppanel report が出て、リニアコライダーが分野の次期中心計画と
	して推薦されており、Fermilab 近辺、SLAC 近辺のサイト検討も行われてい
	る。
	Q:FNAL サイトと SLAC サイトの関係は?
	A:2つの候補ということである。
	アメリカの場合、計画実現までの due process が明確に決まっており、1997
	年の CD1 では、コスト (7.8B ドル) が高すぎる事、他国との budget sharing 
	plan が明確になっていない事などの理由で、不採択に終わった。国際的な資
	金獲得のため、OECD、ICFA International Steering Committee を通して、
	国際共同建設(例スペースステーション)の合意作りを目指している。
	
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020412/LCbyMatsui.pdf
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:リニアコライダーで得られる成果に関する取り決めはどうなっているの
	か?
	A:個人的には、予算の大部分を負担したところが大きな credit を得るのが
	  当然と考えている。
	Q:3500億円のうちでいくらもつのか?
	A:ヒッグスおよび ttbar threshold までをカバーするマシンの全額が適当と
	  考えている。エネルギー増強には国際的な支援が不可欠だろう。
	Q:概算要求はいつできるのか?
	A:今年の夏には概念設計がかたまり、調査費の要求はよりやりやすくなる。
	Q:データを世界で共有できる可能性はあるか?
	A:考えてみる事は良い事だが、計画実現にとってそれが引っ掛かっているの
	  かどうかは疑問。
	Q:LHC high lumi と同時でなかったらどうなるのか?
	A:2〜3年のおくれなら良いが、high lumi が終わった後となると impact 
	  は下がる。
	Q:5年で作れるか?
	A:思ったようにお金が出れば作れる。
	C:現時点では技術のめどが立っているとはとても言えない。
	C:3年で目処が立つと考えている。
	Q:納税者に対する説明は?
	A:雑誌、インターネットを通して広報活動を行っている。特に web を通し
	  た広報活動はもと NHK の解説委員である高柳さんを迎え、強化されてい
	  る。
	Q:高エネルギー以外の分野への応用、波及効果としては何があるのか?
	A:FEL は当初より応用として想定されている。250~500GeV の衝突点下流
	  の電子は捨てるだけなので、原子核分野の人には是非応用を考えてもらい
	  たい。
	Q:物理は競争のためにやるのか?
	A:競争になるほど面白い物理だということである。
	Q:TESLA または NLC が go になった場合どうするのか?
	A:その時点で考えれば良い。

3.4 国内外での原子核物理の現状と将来1
	今井氏より、KEK/JHF 関係を除く、ハイパー核(AGS、J lab、Dafne)、
	RCNP/SPring8、RHIC、などの国内外での原子核物理の現状と将来について報
	告があった。報告は、日本の核物理の概観に始まった。国内の核物理の拠点と
	しては、JHF、理研、RCNP、各大学の中小加速器施設がある。JHF では、
	クォーク・ハドロン多体系の研究を目的とし、ストレンジネス、分光学、構造
	関数、核中のハドロン、高密度核物質など多彩な物理が期待されるが、国外
	では、ストレンジネスについては、JLab、AGS、ハドロンの構造関数につい
	ては、RHIC Spin、HERMES、COMPASS などがある。また JHF での高密度核
	物質の研究は、RHIC での高温核物質研究と相補的な関係にある。一方、理研
	の RIBF は不安定核の物理、RCNP のサイクロトロンでは精密核物理、LEPS 
	(Laser Electron Photon at SPring8) では GeV 光子を使ったハドロン物理を
	担う。
	
	海外でのハイパー核研究については、まず、AGC D-line での 2 GeV Kon を
	使った実験がある。これは、K/π~1で、KEK の約 100 倍のビーム強度があ
	るが、ダブル・ハイパー核、γ分光学などの実験は、日本グループ主導で行わ
	れている。原子核物理は、核力と核構造の解明を目指し、安定核から不安定核
	へ、n/p 核からハイパー核へとその研究対象を拡大するとともに、クォーク、
	ハドロン、核物質と物質の階層性をより広い視野でとらえ理解することを狙っ
	ている。ハイパー核の例で言うと、NN では強い l・s 力が、Λ-ハイパー核で
	はその~1/100 と極めて弱いこと、NN で短距離で斥力(ハードコア)となる
	のに対して引力となり、Stable H-dibaryon の可能性を示唆するなど、核力の
	解明に向けて新しい知見をもたらした。解明に向けて新しい知見をもたらし
	た。これにはまた、最近話題の中性子星内部に多数のハイペロンやstrange 
	quark matterが存在する可能性という重要な応用がある。(γ,K^+) 反応によ
	るハイパー核分光学は、JLabで実験が進んでいる。次世代計画であるGSI IIで
	はハイパー核γ線分光が計画されている。
	ここで、今井氏は、NSAC (Nuclear Science Advisory Committe、高エネル
	ギーのHEPAPに対応) のかかげる、大規模な実験計画が満足すべき Criteria:
		■ Big question?
		■ International leadership
		■ Opportunity for discovery
		■ Community
		■ Application
		■ Attractiveness to young people
	を紹介し、それが満たされているとした。
	
	次に核子のパートン構造の研究について説明があった。これには、EMC 
	effect、spin crisis などの話題があり、歴史的には高エネルギー分野で研究さ
	れていたが、近年になり、核物理コミュニティーの大きな committment が
	見られるようになり、物質の様々な階層構造の理解を目的とする核物理の一環
	ととらえられるようになった。
	スピンの問題については、RHIC Spin、HERMES、COMPASS で、ssbar 
	content については JLab で、Δubar/dbar ratio については FNAL で、
	また、nuclear effect については e-RHIC で研究できる。RHIC では、
	PHENIX、STAR の両測定器が稼働しており、QGP (Quark Gluon Plasma) の研
	究でいうと、既に Au+Au の central collision で π^0 suppression が見えて
	いる。特に、RHIC Spin では、核子のスピン構造に対する新たな知見を提供す
	ると期待され、2005 年には当初の目標である 210 pb^{-1} を達成する予定
	である。
	
	最後に、LEPS (Laser Electron Photon at SPring8) の紹介があった。最大エ
	ネルギー ~2.4 GeV のレーザー・コンプトン散乱でできた偏極光子による 
	photoprodution 実験を通してハドロンの分光学的研究を行う。例えば、しき
	い値近くでのφ中間子の前方生成では、glueball exchange 寄与を調べる。こ
	れは確立すれば、glueball の存在証明となる。
	
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020412/NPbyImai.pdf
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:RHIC QGP はどうなっているのか?
	A:昨年夏より、かなり測定器が入った状態で走りはじめた。しかし、J/ψ 
	  suppression が見えるまでにはまだ1年以上かかる。
	Q:π^0 suppression とか理論はどれくらい信用できるのか?それで QGP と
	  いえるのか?
	A:合わせ技になる。π^0 については pp の重ね合わせとの差、すなわち、
	  peripheral とcentral との差を見る事になる。
	Q:QGP の発見後何をするのか?
	A:時間発展、温度、密度が決まっていく(QGP の物性研究が始る)。今の測
	  定器で行くのは5年くらいである。
	Q:QGP を LHC でやる意義はどこにあるのか?
	A:glue-glue 散乱が主となる点が新しい(U ∝ T^4 なので温度としては2倍
	  程度の差)。
	Q:1次相転移か2次相転移かは決まるのか?
	A:lattice のほうが進んでいる。
	Q:high density はどこでできるのか?
	A:GSI、JHF Phase 3 でやる。RHIC はエネルギーが高すぎて、すり抜けてし
	  まう(RHIC は high temperature)。high density を調べるには、low 
	  E、high intensity が望ましい。
	Q:核力研究をどう系統的に進めていくのか?
	A:NN だけで見るのでなく、YN を使う事により、fundamental な理解
	  (QCD に基づく理解)がしたい。現在のところ、有効理論を書いて、モ
	  デル係数を決める段階。最終的には lattice に入れて第1原理から計算す
	  るのが目標だが、これは10〜20年後であろう。長距離力については、
	  中間子交換で説明がつく。短距離力の理解には、クォークで考えた方が
	  よい(例えば、l・s が ΛN で 1/100 になるのが自然に理解できる、これ
	  は中間子交換の描像では理解しがたい)。
	
	
3.5 国内外での原子核物理の現状と将来2
	谷畑氏より、KEK/JHF を除く国内外の不安定核研究などについて、理研の原
	子核研究を中心に報告があった。核物理学の研究は、p n 核、ハイパー核、ハ
	イブリッド核 (EM と strong が同等に効くもの)、核子、核物質を含み、有限
	多体系の普遍的な性質を研究する。また、それを通して基本相互作用の理解を
	深めるとともに、宇宙での元素合成、天体現象を理解するためのデータを与え
	る。原子核物理は細分化の学問でなく、組み立ての学問 (20世紀は細分化の時
	代、21世紀は組み立ての時代 (T.D.Lee))。
	
	p n でできた原子核の構造の研究は、安定核から不安定核、さらに極限不安定
	核へと進んできた。そのための道具は RI ビーム (15年程度の歴史) であり、目
	標は、原子核存在の極限を探査し、物質存在の新しい形、ダイナミクスの新し
	い形を探究するとともに、標準理論や、基本対称性、保存則を検証することで
	ある。一方、元素合成過程においては、不安定核が本質的な役割を果たすと考
	えられており、原子核天文学へ基礎的データを提供する。その他、RI ビーム
	の応用は、医学、物性など多岐に渡る。不安定核の研究では、A^{1/3} 則の
	破れ、スキン、中性子ハローの出現、魔法数の変化など、安定原子核の常識を
	やぶる現象や、分子状原子核(共有結合)など新しい存在形態が見つかってい
	る。元素合成過程で不安定核が関与しないのは S process のみで R process 
	には全て関与する。R process における生成元素の存在比の研究は次世代 RI 
	ビーム実験の大きな目標の1つである。
	
	世界の RI ビーム施設を見渡すと、アジア地区に理研/日、北米の MSU/米、
	ORNL/米、TRIUMF/加、ヨーロッパの GSI/独、GANIL/仏 があり、代表的な将
	来計画としては、アジアに RIKEN-RIBF/日、北米では、RIA/米、TRIUMF増強
	/加、ヨーロッパでの GSI 増強/独などがある。これらは、いずれもビームエネ
	ルギー/ビーム強度にして数倍から10倍以上を目指している。
	日本の核物理は、RIBF と JHF とで主要な研究項目を全て押さえているといえ
	る。
	
	
	報告の詳しい内容については
		トラペのコピー:http://www-conf.kek.jp/ipns-rpc/slides/20020412/NPbyTanihata.ppt
	を見よ。
	
	報告の後、以下のような質議が行われた。
	Q:GANIL はいくらか?
	A:1000億である。RIBF は $500M。
	Q:RIBF のユーザー・コミュニティーはどのくらいの大きさなのか?
	A:日本だけで約 600 人 (この内、原子核は ~300 人)。ちなみに RHIC に参
	  加している。日本人は40人程度。また、PAC へのプロポーザルは約 
	  80% がロシアからである。
	Q:放医研との関係は?
	A:RI ビームは重イオンとアイソトープのいいとこ取り(どこにどれだけ入れ
	  たか real time で分かる)。
	Q:次世代の目標ビーム強度は実現可能か?
	A:原理的には可能だが野心的である。
	Q:軽い方の現象の研究はどうなっているのか?
	A:酸素19 は TRIUMF で現在研究中。
	Q:次世代 RI ビームで R process はカバーできるのか?
	A:高いところは無理だが、可能である。
	Q:次世代のための実験技術はあるのか?
	A:開発は必要だが、本質的に原理をかえる必要は今のところなさそうであ
	  る。
	Q:次世代はどれくらいの時間走るのか?
	A:例えば R process をやろうとすると、~300 個の不安定核の寿命を測定す
	  ることになるが、それは大変である。つまりできるだけ走るという事だ。
	  実際、250個/5 年くらいのペースで新しいアイソトープが見つかってい
	  るが、理論屋が新たに予言する量の方が多い。


4. 議論
報告を聴いた後、今回の話を今後の議論にどういかしていくか、どこを目指し、ど
ういうスケジュールでまとめていくかなど、今後の進め方などについて議論した。
必ずしも、時系列でなく、また出された意見を網羅したものでもないが、おおよそ
次のような意見が出された。

Q:今日の話を今後の議論にどういかしていくのか?
A:日本がどういう物理をやろうとしているのか、世界はどうか、その中で JHF が
  どう位置付けられるのかを明らかにするのに役立てる。
Q:今日なかった話で聴きたい事は?
A:HERA
Q:素粒子分野でハドロン分光学をやっている人はいるのか?
A:GAMMS (--> COMPAS)、CLEO C、2-photon QCD をやっている人など小さい
  グループはある。
C:これが JHF とどう関わってくるか、survey するという意味では聴く必要があ
  る。
Q:学会での JHF の話はどんなだったか?
A:素粒子、原子核、中性子、μの話。
C:(話を聴くばかりでなく) time scale を考えるとそろそろどろどろした議論を始
  める必要がある。
C:素粒子、原子核各々の分野で、JHF がその各々が目指す物理のどこを担うのか
  位置付ける事、世界の他の計画の中での位置付けをすることが先決である。そ
  してお互いにそれを理解し認め合う事が重要。
C:評価はした方が良い。
C:所長がどういうものを求めているかによる。
A (山田所長):予算は決まっており、限られてもいる。現実は、K ホールの半分と 
  Charged K line の予算が認められているに過ぎない。また、全会一致で優先順
  位がつけられるとは期待していない。開始時期の順番がつくかつかないかとい
  うところだと考えている。いずれにせよ、7月頃には何かまとめ (中間答申?) 
  がほしい。
C:ねれたものならば、(優先順位がついていなくても) 使えるのではないか。
C:優先順位がついていなければ使えない。
C:第2期は今のところ紙の上だけの話である。第1期で旗がたち、これをやり遂
  げる事で初めて第2期がある。
C:議論を、資源ぬきの物理だけの議論と、資源を考慮した議論の2段階に分けた
  らどうか?
C:理論の分野全体をまとめたトークを聴きたい。
C:岡田氏、初田氏にたのんではどうか?
C:外部の人の方が良い。
C:優先順位を考えるための境界条件、予算、必要となる実験施設とその共有可能
  性など、fact に関する情報を集めることが重要。そのための話を聴くべき。
C:それについては、金氏のテーブルが出てくればかなりの事がわかるのではない
  か?
C:進め方としては、分野全体の Grand View を描き、その中に JHF での計画を位
  置付けるとともに、fact を明らかにし、テーブルにまとめる作業をするところ
  から始めてはどうか?その中で優先順位の議論が可能かどうかも見えてくる。
C:将来に渡って JHF がどう進んでいくのかに関する展望が必要。
C:νについては、第1.5期計画として、本年度概算要求 (160億) 準備中。
C (委員長):次に聴く事としては、永宮氏から JHF の現実について、それと、素粒
  子、原子核、各々について理論の人に分野全体を見渡した話。後は JHF と競合
  する外国の計画。
C:JHF と競合する外国の計画については委員の中で簡単にやってはどうか?
C:νについては、ヨーロッパは τ appearence、アメリカは5年遅れで、JHF と 
  KEK の間。よってこれについて外の話を聴いても仕方ない。
C:核変換についても聴く必要はない。
Q:今後、具体的にはどうやってまとめていくのか?
A:専門と専門外をペアーするのはどうか?
A:次回までに委員長が案を作り、次回分担を決める。
C:自分の事だけ書くのでは認識が広がらない。
A:fact のテーブルを用意する作業に入ること。
C:JHF 開始後 5 年程度の物理を見極め、役に立つ答申にしてほしい。
C:スケジュール的には、次回5月は、半分話を聴き、残りを使って作業を始め
  る。続いて 6月は作業を中心に、7月には現状把握のドラフトといった感じ
  か。

5. 次回
	委員長提案で、次回は、JHF での原子核・素粒子実験が、分野全体の中でどう
	位置付けられるかを明らかにするため、分野全体の話を理論のスピーカーを選
	び聴くとともに、永宮氏から JHF の現実の話を聴くことになった。引き続き
	議論、そして、まとめの作業を開始する。
	
	次回の日程:5月中旬ということでメールで日程調整する。


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