2021年10月08日15:30-
量子振り子の開発と応用
松本 伸之 氏
(学習院大学)
アブストラクト:
機械振動子は外力に対するセンサーとして古くから利用されてきた。近年では、振動子とレーザー光を光共振器で結合させることで、極めて高感度な振動子の変位計測(つまり、力計測)が実現可能となってきている。特に、振り子は重力ポテンシャルの影響によって極めて低散逸な振動子となるため、揺動散逸定理から、熱的な揺動力の小さな良質なセンサーとして応用できることが知られている。2015年に達成された重力波の直接検出は、振り子振動が極めて低散逸なために実現したと言える。センサーの性能を究極に向上すれば、振動子の量子揺らぎ程度の空間分解能でさえ、原理的には到達可能となる。しかし、振動子の位置の量子揺らぎの大きさは、振動子の質量が大きくなればなるほど小さくなるため、その実現は困難となる。本講演では、質量ミリグラムスケールの極めて巨視的な振り子の重心振動の量子計測と制御の原理検証について紹介する。特に、振動子の重心振動と回転振動の光学トラップ、精密変位計測の実現、低散逸振り子の開発、振動子の量子状態推定について説明する。これらの基盤技術の融合により、近い将来、2つの巨視的な振り子の間の量子エンタングルメント状態が生成可能となるだろう。このような技術開発の果てに、量子制御された物体が生じる重力の性質を検証するといった新たな研究領域が創成する可能性がある。また、外力センサーとして応用すれば、超軽量ダークマター・相対論的な重力の探索、重力定数の精密測定といった新たな応用につながることが期待される。